根も葉もある嘘八百

光れ 光れ その先に何があっても

私がアイドルを初めて知った時

その日私は、ただぼうっとテレビを見ていた。あれはいつのころだっただろう。小学生になるかならないか、それくらいの幼い時期だった気がする。

画面の中から、軽快な音楽が聞こえる。それはどこかで聞いたことのあるメロディーで、数フレーズ流れたあと、また別の曲に変わる。今度はミディアムのバラードだ。この曲も、冬の時期によく聞いたことがある。画面に目を向ける。まっすぐな目で歌い踊る男性が、映し出されている。その中の一人は、私が毎週楽しみにしているバラエティー番組のレギュラーだった。その番組は全国から探し出した逸品を2種紹介し、出演者がどちらが食べたいかを投票する。多数決で多かったメニューを選んだものだけが食べることができる。単純なルールだが、私はその番組が大好きだった。番組内でいつも周囲の予想を裏切る投票をして、勝ったときは恨み言を言われ、負けては笑いものになっているのが、まさに画面の中でタップダンスをしている彼だった。

この人歌って踊れるんだ。新鮮な驚きが自分の中に走った。たしかに聞いたことのある、もしかしたら知らずに口ずさんだこともあるかもしれないポップなメロディーと、その彼が全く結び付いていなかった。

かっこいいな。思えば、その日は初めてかっこいいという言葉の意味を知った日かもしれない。

楽曲が一通り流れた後、さっきまで真剣な顔で歌っていた男性たちが笑顔で語り掛けてきた。

「みなさんこんばんはー!」

眩しい。まるで太陽、のような明るさだった。ドキッとした。それが異性に対するときめきだったのかはわからない。ただ胸が動くことを、ドキッとするというのは心臓が動くからなんだろうな、こんなにも一つのものから目を離せなくなるからなんだ。そんなことを知った。

メンバーの1人が30歳になった、という話をしていた。無邪気な笑顔を浮かべる、まるで子供のように無邪気な笑顔の青年が、30歳になったばかりの彼に言う、「おじさんっ!!」

「お前、いまおじさんっつったな!」すぐさま青年は頭をとらえられ髪をかきむしられていた。みんなわらっている。でも彼は、私のそれまでに知っているおじさん、という存在とはあまりにも明るく、弾んでいて、かけ離れていた。

カッコいいな。誰か一人にではない、何だかその空気に、画面に対してぼんやりと心で投げた。

 

私は幼いころ、時間が過ぎるのがどうしようもなく怖かった。夏、コンビニでペットボトルを買っては、冷たいうちに大急ぎで飲み干した。ぬるくなったものを感じるのがこわくて。時間が過ぎること、そのものの最高の状態がなくなってしまうことが、見たくなくて、何かにずっと焦っていた。

人が年を取ることにも同じものを感じていた。30歳を迎えたメンバーをおじさん、という彼らを見て、彼はちっともくすんでは見えないけれど、30歳、とは決して褒められた年齢ではないのかなと思った。みんなが30歳、になってしまったら彼らはかっこいい、ではなくなってしまうのかな。こわい、こわい。いかないで。自分と話したことのある家族でも、友達でもないのに、そんな焦りが自分の中に浮かんだ。

若さをカッコいい、というのなら、画面に映っていたもっと昔の映像の方がカッコよかったのかもしれない。でも、その時ふざけながら、笑いながら語る当時の姿が、その時の「今」が一番カッコよく見えた。

 

本当に、あれはいつのことだったんだろう。

薄暗闇の中に座りながら、ふとその幼い日を思い出す。隣に座る女の子の手には、大きなうちわ。「大好き♥」蛍光色で縁取られた文字は、今にも声で聞こえてきそうな気がした。

 

あの時見つけたカッコいい彼らは、どこかにいってしまった。私の焦りとは裏腹に、彼らは年齢なんてお構いなしにカッコいい、を更新し続け、ある日突然、いなくなった。なぜ、どこにいってしまったのかはわからない。わからなくていいとも思う。でも、絶対あったのだ。触れていなくても、会話していなくても。

夢のようなキラキラした何かを、確かに私は見つけた。

 

ダンッ、と低い音がして、周囲が真っ暗になる。それも一瞬のことで、周囲に色とりどりの光が灯る。ピンク、黄色、赤、青、オレンジ———

幕が、開く。

キャー!!!!耳がびくんっとするくらいの嬌声に包まれ、シルエットが映し出される。私は今、何に手を振っているんだろう。憧れ、神様、それとも…生贄?

きっと手を振る限りこの夢は終わらない、終われないんだろう。

あの時見つけたキラキラを、私はきっと今もこれからも、追いかけ続ける。